台湾版『オーダーは探偵に』

by - 土曜日, 6月 30, 2018



『オーダーは探偵に』の台湾版が出版されました!

オリジナル版のエピソードをまじえつつ、台湾版『オーダーは探偵に』を紹介したいと思います。


・装丁
本のサイズは文庫本の2倍。
おかさんのすてきなイラストがこの大きさで楽しめるなんて、台湾の人がうらやましい!

表紙のデザインも背景が白抜きですね。
こちらは原作の3巻以降のデザインに近い印象です。
台湾のデザイナーさんが揃えてくれたのかな?



オリジナルの装丁はデザイナーさんが複数のパターンを出してくださって、その中から担当編集者さんと選んだのを思い出しました。

いまでこそ「オーダーは探偵に」シリーズらしいデザインが確立していますが、当時はすべてが手探りで。
フレームや色、イラストのどこにタイトルや著者名を載せるか。
おかさんのイラストは緻密で、本当にすてきで、もう著者名なんて邪魔じゃない!?と本気で思っていました(笑)

台湾版の帯の文面は原作と同じかな?
帯にも表紙のイラストを使っているところがすてきですね!


・タイトル
(原題 → 台湾版)
オーダーは探偵に→ 點餐請洽偵探
謎解き薫る喫茶店→ 散發解謎香氣的咖啡廳

さっそく読めない! と思ったら「探偵」は中国語でも「探偵」なんですね。
副題のほうは、ああっ、なんかわかるような……!

翻訳では原作からタイトルが変わることがままあります。
たとえば、L・M・モンゴメリ作『赤毛のアン』の原題は「Anne of Green Gables(グリーンゲーブルのアン)」。
最近の作品で有名なのは、ピエール・ルメートル作『その女アレックス』でしょうか。
こちらの原題は「Alex」。
邦題をただの『アレックス』としなかったところに巧さが光ります。

『オーダーは探偵』にもきっとこうしたセンスが出てるんでしょうね!
台湾版の副題「散發」は、薫るというより散布とか広がるイメージがするんですが、どうなんだろう?
中国語は大学でかじった程度で、もはや記憶のかなた。
ああ、こういうところに翻訳者さんの個性が出るのに!!
翻訳者さんがどんなふうに作品をとらえ、言葉を選んでくれたのか、読めないのがとても悔しいです。

ここまで読まれた方は、うすうす感づいているかもしれませんが……あの、じつは私……
翻訳が大好きです。

翻訳という行為が。異文化を乗り越えていくかんじが。言葉が解けて別の世界の言語に生まれ変わるのが、とても面白いのです!!
どのくらい好きかというと、翻訳をテーマにした小説『雨ときどき、編集者』を書くくらい好きで好きで。
うう、だめだ、好きすぎる……!
ここからはその気持ちをつつみ隠さずお送りします(笑)!


・登場人物
(日本 → 台湾版)
小野寺美久→ 小野寺美久
上倉悠貴→ 上倉悠貴
上倉真紘→ 上倉眞紘

くっ……カタカナの名前の人物を出しておけばよかった!!
名前そのまま、日本語と一緒!
ひらがなかカタカナにしておけば、漢字をあててもらえたかもしれないのにっ
日本語と中国語では発音が違いますが、字面が一緒なのですごく切ないです。

ちなみに真紘の「真」が「眞」なのは、もともと同じ漢字ためです。
日本では「眞」は旧字体、台湾では現役の漢字なんですね。面白い!


・本文
まずは、こちらをご覧ください。


おわかりいただけただろうか。


文中に、注が入ってる……!

翻訳小説で見たことある!!
すごい、意味の紹介だけじゃなくて文化的な背景まで紹介されてる!!!
よだれがでそうです。

ちなみに全文は、

この注は、エメラルドの店内に貼ってある〈貴方の不思議解きます〉の「ます」の字は□に斜線の古い表現ですよ、という記述に対してつけられたものです。
特殊記号なのでわざわざ使わなくていいか、と原作は説明だけにとどめたのですが、まさか台湾版でこの表記を目にしようとは!
熱い、熱いです台湾版! プロフェッショナルな気配をバシバシ感じます!!
すばらしい仕事をありがとうございます!


台湾版をめくると、登場人物の呼び名に翻訳者さんの丁寧さを感じます。
誰かが美久に話しかけるとき、「小野寺小姐」「美久妹妹」といったぐあいに、キャラの性格に合わせてちゃんと使い分けてくださっているんです。
すごくうれしい……!

たとえば、もしアメリカで「オーダーは探偵に」が翻訳されたら、メインメンバーは美久を一律〝Miku〟と呼ぶはずです。
真紘は「小野寺さん」と呼びますが、アメリカはファーストネームで呼ぶ文化ですし、日本人の名前は覚えにくいので、ひとりの人物に複数の読み方があると、読者さんに不親切です。

あれ? じゃあ悠貴もMikuって呼ぶのかな!?

悠貴の性格からすると呼ぶはずないんですが、アメリカ文化圏の悠貴なら呼ぶかも……!

国が変わると、表現やキャラの雰囲気も変わる。
どうですか、翻訳面白くないですか!!?


台湾版の翻訳者さんが日本の文化に寄せて敬称を選んだのか、台湾の文化に寄せているのか、大変興味をひかれます。
翻訳するとき、なにが一番難しかったのかな。キャラクターの性格や関係性をどんなふうに受けとめてもらえたんだろう?
そんなふうに考えると、ワクワクします。
台湾の方にも『オーダーは探偵に』を楽しんでもらえたらうれしいです。

ちなみに日本で一番、台湾版を楽しんだのは間違いなく私です(笑)
台湾の出版社の方、デザイナーさん、翻訳してくださった方、本当にありがとうございます!

* * *

台湾版の本の情報

タイトル 點餐請洽偵探:散發解謎香氣的咖啡廳
出版社  春天出版社
翻訳者 kreuz+さん
出版年 2018

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